《特集》 監督総括 in 某所のバーで


いつの間にか始まった、府内某所バーカウンターでのやり取り。京都Fリーグの本拠地、横大路グランドが舞台となった「横大路の悲劇」2連敗の夜から、番記者との会話が公式ブログに公開されるようになった。準優勝を決めた夜も、彼は店には来なかった。「改めて別日に、全てを語る」とメモを残して…。彼は何を語るのか、そして番記者の目に、12年間に及ぶユーマーズはどう映っているのか。紙面の許す限り、余すことなくここにその想いを刻む。

 


某私鉄駅の高架下。雨脚の激しい、週末の夜だ。

カウンターは5席、後ろには4人がけのテーブルが2つしかない小さなバーだ。試合の後、監督がたまに寄るという話を聞いて出向いたのはいつからだったか。それ以降、特に聞き出したい話があるときは、決まってこの店を訪問することにしていた。

いつもなぜかど真ん中の席に座る。普通は端から座るものだが「ど真ん中こそ醍醐味だ」と、やや意味不明な話を聞いたことがある。以来、悪酔いするとき以外は決まって中央の席に陣取っている。彼は一人で。

あの「横大路の悲劇」の夜も、しっかりど真ん中に座っていた。いつもと違ったのは、飲んでいたお酒の量くらいかもしれない。震えた手で、グラスを傾けていた。語気も荒く、さすがに堪えたのか。ただ、ターニングポイントの夜は、やはり決まって、力強かった。

そして前回、準優勝が決まったその日の夜、置手紙をマスターに手渡し監督は店を後にしていた。後日全てを話す、その“後日”がまさに今日だ。

記者である小生に、妙な緊張はない。しかし憶測は広がる。核心めいた話をされるのでは、まさか何かの重大発表をしようとしているのか、妄想が勝手に、自身の鼓動を急かし始める。

上鳥羽ユーマーズ。2005年に創立、京都の上鳥羽を主戦場としているが、基本的に上鳥羽との思い入れや関連性は「皆無」とのこと。この12年間で述べ148名(助っ人・日替わりを含めて)が加わり、今残っているのが潜在選手含めて24名。つまりこの12年間での“生存率”はわずか16%、まるでどこかの戦場でも潜り抜けてきたようなサバイバル感に溢れた数字ではないか。

色々な苦労があった。立ち上げ時は野球経験者がいない。ラグビー、剣道、サッカー、バレーボール…なぜそんなコミュニティが白球を追いかけようとしたか、今となっては謎である。監督いわく「こんな天気のいい日には、外で野球でもしたいねえ」が始まりだったと。しかし結果的に、野球ではなくソフトボールだった。「素人も混ざれる、女性も参加できる、そんな空間を作りたかった」、だから経験者よりも、人柄やノリに付いてくることの出来るメンバーを優先した。そのマインドは、準優勝を成し遂げた今も、継承され続けている。確かに上手いに越したことはない、しかし、上手いだけなら“生き残れない”。ユーマーズというチームが、16%という奇跡の積み重ねで今に至った経緯も、創設の背景を知れば合点がいく。UMAs劇場も、実は含んでのユーマーズであったのだ。

だからとは言わないが…過去の成績は別紙に譲るとして、ほぼ万年最下位、またBクラスを独走している球団である。京都Fリーグに所属して以後、Aクラスさえ経験がない。幾多の試合で織り成す様々な「珍事」を、人はいつしか“UMAs劇場”と表現するようになった。その評価をむしろ、ユーマーズは心地よく受け入れていた感さえある。

5周年には白のTシャツ、10周年には選手トランプ、記念書籍を製作するなど、グランド外での暗躍もユーマーズの特徴だ。色んな私設球団を見てきたが、ユーマーズ以外でお目にかかったことはない。将来的には海外遠征、青少年の育成機関も視野に入れているというから、何だか良く分からない。何だか良く分からないが、何とも楽しそうではある。

もちろん試合に挑むからには、勝つためにグランドに立つ。しかし、それを目的にしていないところが、ユーマーズのユーマーズたる由縁なのかもしれない。

 

 

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約束の時間5分前に、監督は現れた。こちらのソワソワ感などどこ吹く風、何呑む?から私たちの会話は始まった。ここから話された内容は全て、小生の質問は省いて、監督のみの言葉で表現することにした。自信、葛藤、そして、期待。そのままを感じ取ってもらえたらと思う。


 

選手に対する想いと、期待

こうして機会を設けたのは他でもない。今季結果的に準優勝という、昔では想像さえできなかった偉業を成し遂げた、そのことについての感謝と、この結果を創り上げた17名一人ひとりにスポットライトを当てたいと思ったので、わざわざまたここに来てもらった。

 まずこの偉業は、17名誰一人欠けても成し得なかったことは特に申し上げておきたい。そして、17名を送り出してくれた家族の理解が土台になる。届くかどうかは分からないが、選手の家族に、最大限の感謝を申し上げたい。

 ユーマーズがずっと大事にしてきた考え方を、今回初めて体系化した(巻頭参照)。これも、今季好調をキープしていた、まさに優勝争いを展開しようとしていた最中に作成した。勝っているときこそ、この考え方は忘れてはいけない。そんな自戒を私に突き付けてくれた意味においても、今年の意義は大きいと思う。

 このチームは間違いなく、選手達があってのチームだ。だからここからは、今季来てくれた17名と、2名のスタッフについて語りたいと思う。まとまっていないから、書紀大変だろうけど、まあ呑みながらやってくれ。…酔うと書けない?そもそも書かずに、ICレコーダーで録ったらいいじゃないか。おーいマスター、芋焼酎ロックで。

 


核弾頭の存在がU好調を決めた


3 梅垣克己

彼の存在感は今年特に光っていた。一番打者の手本のような存在だ。ある意味ムラもある、しかしその荒さが一番に相応しいんだ。それでいて、試合運びを本当によく理解している。提言の一つひとつが、私にとっても学びになっている。チャンスに弱いと言う評価もあるが、それだけ責任感が強いと言うことだろう。

毎回審判では球審を任せているが、行き過ぎた選手には注意も出来るし、曖昧なジャッジがない。

あの審判力は他チームに見せても胸を張れる。

来季もあの勢いで引っ張っていって欲しい。

 

選手としてまだ目指すものがある


5 弓指利武

来季の優勝のためにできることを、今から考えている。それはプレーヤーとしても、だ。どこでも守る覚悟を持って、どの打順でも担う決意を持って、優勝と理念達成のために、自分という人的資源をどう活用するか。どこでもやる気がある以上、絶対に引くことは出来ない。

シーズン13年目に入るからって、小さくまとまるつもりはない。メンバーと共に栄光を勝ち取る。目指すのではなく、もう、決めている。

 

 

 

戦略家であり大打者という使命


6 澤篤史

今更ここでどうのこうのと話す選手でもないだろう。今期の首位打者で、リーグを代表する打者であることは証明された。また今期はアナリストとして、様々な角度からの分析と考察を駆使し、フロント陣営としての存在感も際立っている。

事実、彼の計算によって星取りや戦略を策定できた価値は計り知れない。綿密で繊細で、そして豪快。天は二物を与えたということだ。

 

投手陣を支え続けた意義


8 濱中裕之

Mr.パーフェクトは今年も抜群の投球で相手チームを唸らせた。まだまだ下位に甘んじていた時、心折れることなく懸命に投げ続け、エースとして君臨し続けてくれたことは感謝に堪えない。その努力が結実し、こうして上位に食い込んでいったことは実に感慨深い。まだまだ彼には、やって欲しい仕事が山ほどある。

今後もどんどん、牽引していって欲しい。

 

チームの柱として、今日もUを担ぐ


9 尾崎慎太郎

実績や技術もさることながら、彼がグランドのど真ん中に立っているには理由がある。それはチームの精神的支柱として常に叱咤激励を続けている、その抜群のリーダーシップに他ならない。

彼の存在がどれだけUMAsを盛り立て、支え、勇気付けてきたか。計り知れない重要な仕事を何事もなかったかのように担い続けているのが、実に心憎いじゃないか。

 

流れと場を創るスペシャリスト


10 三木侑平

どこからでもなじめる人間力と、常に楽しみながらプレーできる姿は、UMAsにとって非常に大きな力付けになったのは間違いない。選択理論という手法を用いて、自分が源で向き合う彼の洞察力、そしてグランドに立つことを自分らしく表現し、楽しむことができるのは、見ていて清々しい。

来期どこまで参加できるか、彼の登場を私は待ち続けている。

 

人は成長を止めないことを立証


12 弓指義弘

彼がこのチームにいる限り、現役引退という言葉が使えなくなった。開幕の3安打は、チームメイトに希望の光を与えた。歩くルールブック、そして驚異的な出塁率は、UMAsにとって重要な存在だ。

シーズンを通じて物品管理も担い続けてくれたことは、影の功労者として称えないわけにはいかない。人はいつからでも伸びていける、それを実証した。

 

信頼と誠実に勝るスキルはない


16 安田章人

絶対に裏切らない、そして必ず何とかしてくれるという安心感がある。彼がいると、負けない気がするのは俺だけだろうか。シャープな右打ち、そして堅実なグラブ捌きで、幾多の危機を乗り越え、好機をものにしてきた。

社交的に多くの選手や相手とも対話をする彼の人間性は、UMAsの要になっているのは間違いない。

 

 

投手の常識を覆した事実は大きい


21 吉田啓祐

勝率10割、それでいて緩急の効いた「誘う」投球が実に見ものだ。速球こそ投手の醍醐味と思っている人は、一度彼の投球、生き様を見るといい。

きっとその考えは音を立てて崩れ去る。感情を下手に前面に出すことなく、それでいて怯まない姿勢は投手の鑑だ。打つ方でも意外性を発揮して一二塁間を抜ける打球を放つ、見ていて飽きない。

 

どこまでも孤高の目標を掲げる男


22 伊藤研三

 別名「昇り竜」の由来は、その伸び上がる投球と、成長し続ける怪物振りを表したもの。つまり二刀流の本格派だ。守っても軽快なグラブ捌き、そして試合30分前には必ずやってくる誠実な姿勢は、チームの良きお手本となっている。

あの悔しいサヨナラ負けを払拭する翌節の好投は忘れられない。日ごろの姿勢と、飽くなき挑戦心がもたらしたものだ。



 

毎回の強化遠征を乗り越える勇者


24 渡部雄太

UMAsが将来的に遠征を企画しているが、彼に言わせれば毎試合が長期遠征だ。和歌山からUMAs愛で駆けつけ、旅の疲れも吹っ飛ばす驚異的な活躍を見せた。恐らく彼にとって、守備に定位置という概念はないだろう。

今思えば当初は捕手、今はショート、もともとは外野。まさに彼は、グラウンドを自由自在に駆け回るターザンそのものだ。

 

意外性と強弱で戦うスナイパー


25 荒木勇

彼の打力と、その強肩は目を見張るものがある。いつまでも地面に平行して進む送球は、レーザービームそのものだ。それでいて意表を突くセーフティバント、こんなのがいたら相手は大変だろう。

彼の存在は、実に様々なサプライズをプレゼントしてくれるので、実に心強い。現に打率にも、そのポテンシャルが現れている。小技と大技をこうも気軽に織り交ぜることの出来る選手は少ない。

 

今季の女房役として支えぬいた壁


31 稲葉孟史

その人当たりの良さ、穏やかな人柄と似つかわしくないほどの豪華なスイングで突破口を見出し、その抜群の包容力で、今期幾多の危機を女房役として切り抜けてきた。

夜勤明けであろうが何であろうが、今日という日を全力で戦うUのソルジャー、これほど頼れる存在も珍しい。来期もUの砦として立ちはだかる存在でいて欲しいと思う。

 

前向き一等賞、その存在が輝いた


96 稲葉尚輝

稲葉兄と同じく、堂々たる佇まいの中で、いつもグランドを走って移動し、進んでランナーコーチを引き受けるなど、その姿勢は光り輝いている。

打っても守っても一流であるからこそ、こういった姿勢を持ち続けることができるんだと、私も勉強になった。これからは主軸として益々の活躍を期待したい。家族連れの姿も、良きUMAsの将来像として恒例化して欲しい。

 

三塁線の牛若丸が今日も舞う


97 粟津愼大郎

きっと京都の三条大橋でも、こんな感じで牛若丸は橋上で舞いを披露したんだろうと思わせるほどの、粟津の可憐な守り。反射力、瞬発力、この凄さは一級品だ。常に謙虚に振る舞い、何事も真っ向勝負していく姿勢も好感が持てる。

こういう若手が増えたことも、UMAs飛躍の大きな要因となっているのは間違いないだろう。

 

彼の目前で飛ぶ球は全てが獲物


98 熊澤良介

飛んでくる打球は、決まって彼のグラブに納まる。どんな球も彼の前ではイージーフライになる。走っても相手の隙を突く見事なまでの動きは、相手チームを翻弄する。外野の守りの安心感は、リーグでもトップクラスは間違いない。

後半戦でやっと参戦できるようになった、その日までが何と長く感じられたことか。

 

 

本格派スコアラーの手腕に期待


01 平尾圭

突如として現れた本格派のスコアラーは、UMAsに新しい展開を予感させてくれた。また渉外についても今後の遠征に期待を持たせる存在だ。懸命に白球を追い、スコアを記載する姿勢は素晴らしいの一言。

UMAsのスタッフ層の厚さは、彼女の存在が非常に大きく、来季も様々な局面で力になってくれると期待している。

 

選手の顔、息遣いを捕らえ続ける


02 笑喜健太郎


ルールなんて関係ない、撮りたい写真のためにはグランドにだって入っていく。この意気はとても頼もしい。白球を追いかけるUMAsの戦士たちを、息遣いまで捉えそうな素晴らしいショットで、その活躍を写真で残してくれる。

こんなに有難く、幸せなことはない。

 

韋駄天男が来季のUをかき回す


95 吉田亨平


かなり浅いレフトフライでも、三塁から果敢に…いや余裕のタッチアップができる韋駄天男。彼の加入はUMAsのまさに鬼に金棒だ。若さだけでなく、啓祐のDNAをしっかり引き継いでいる点も素晴らしい。

ベテラン、中堅、若手の台頭の中で、超ルーキーが加入するのはUMAsの今後の将来をより明るくする。間違いない、俺が保証する。

 



 

…まあ、ざっと言うと、こんな感じだ。

話しながら気づいたんだが、来季のUMAsに対して重要な指標は3つある。

 

1)一人ひとりの力を信じないで、良いチームはありえないということ

2)普遍的に守るもの、日々変えていくものの、両方を備え持つこと

3)このUMAsのコミュニティでしか体験できないワクワクドキドキを創作すること

 

この3つの気概を持って、チームビジョンを生きることこそ、UMAsに求められるものなのかもしれない。それは、弱かろうが強かろうが、状態に関係なく求めていくべきものだ。その重要性に特に気づかせてくれた。同率首位とはいえ、やはり準というのは悔しい。でもこれは、こんな物凄いプロセスを体験して、このメンバーで突き進んできて、20試合を積み重ねてきた、UMAsでしか獲得できなかった「優勝以上」の財産だ。そして、来年の完結編に向けた強烈な動機を得た。 どんなことがあったとしても、どんな事態に巻き込まれたとしても、初心を忘れず、理念を刻んで、前を見る。そういう2018にすると、もう、決めている。

私が言いたかったのは、そういうことだ。まだ雨は止まないのか…。そろそろ時間だな、今日はここまでにするとしよう。いいか?

 


 

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一通り語り終え、全く手をつけず握り続けていたグラスに目をやる。

ああそうか、酒が入っていたのかと、今更思い出したかのように口に運んだ。

 

チーム全体よりも、一人ひとりを語りだした。

あのピクサーの超大作『トイストーリー3』のラストシーン、主人公が愛着いっぱいのおもちゃ一つひとつに語りかけたあの場面とオーバーラップする。その後、おもちゃを少女に譲る。

え…お別れなのか?いや違う。“始まり”なのだ。

 

充実感と悔しさと、決意の行間に垣間見える“戸惑い”とが交差して、何とも言えぬ質感を放っている。 

恐らく来季も、この自信を胸に、それでいて試行錯誤を繰り返しながら、挑戦を続けるのだろうと思う。

 

来季、メンバーは集まるのか、方向性はどうか、メンバーをどうアサインするか、同意のプロセスをどう積み立てていくのか。そして、Uの未来に、何が待っているのか。

 

「また来年も、このバーで会おうや。」

 

私はただ、思っていた。恐らく来年も、多くのレポートを書くのだろう。それは、たかが京都の小さな一球団の、されど大きな夢を担いで、真っ直ぐに向かっていくUMAsのことを、今後も伝えていきたいと。

 

 微かに映える店内の、やや煙たい明かりのもとで、ただ、思っていた。思い続けていた。

 

府内某所の高架下。雨脚激しい、週末の夜である。

 

(文:UMAs番記者)